vol.12 音楽 川井憲次さん

さて、今回は『音楽家』の川井憲次さんのご登場です。『音楽家』という職業に既に尊敬!!!!!!!っ。だって、たまこは楽譜も読めないんですもの…。(しかも、子供の時ピアノ習ってたのに!!)楽譜が読めて、楽器が弾ける…それだけで本当に憧れてしまいます。川井さんは音楽もステキですけれど、その“人となり”が魅力的でした。
そして…『イノセンス』カンヌ映画祭コンペティション部門出品おめでとうございます。日本アニメ映画“初”の快挙です。


【略歴】
東海大学工学部原子力工学科を中退後、尚美音楽院に入るもののそこも半年で中退。 たまたまコンテストに応募するため即席で作ったMUSEというフュージョンバンドがグランプリになってしまい、しばらくデビューに向けてバンド活動を行うが、色々なアーティストの方や声優の方のバックバンドをやっているうちに自然消滅した。 その頃から自宅録音に興味を覚え、企業VPモノやCM等の仕事を始める。 そして、その当時おつきあい(変な意味ではない)があった声優の三ツ矢雄二さんのお芝居の音楽をやらせていただき、たまたまそこにいらっしゃっていた音響監督の浅梨なおこさんから劇判の世界に入ることを進められる。 そして、現在に至る。

【主な担当作品】
紅い眼鏡 (87/オムニバスプロモーション)、 精霊のささやき (87/エクゼ、渡辺プロダクション)、 機動警察パトレイバー劇場版 (89/バンダイ、東北新社、スタジオディーン) 、機動警察パトレイバー2・劇場版 (93/バンダイビジュアル、東北新社、イング)、 らんま1/2 超無差別決戦! (94/キティフィルム)、 攻殻機動隊 (95/講談社、バンダイ、マンガエンタテインメント) 、リング (98/角川、東宝)、 リング2 (99/角川、東宝) 、逮捕しちゃうぞ the MOVIE (99/東映)、 ガラスの脳 (00/日活) 、カオス (00/タキコーポレーション) 、さくや妖怪伝 (00/トワーニ) 、サディスティック&マゾヒスティック (01/日活) 、AVALON (01/バンダイビジュアル) 、修羅雪姫 (01/オズ)、 仄暗い水の底から (02/角川、東宝)、 SAMOURAIS (02/Fidelite) 、BLOODY MALLORY (フランス公開02/Fidelite) (日本公開03/GAGA)、 WXⅢ機動警察パトレイバー (02/バンダイビジュアル) 、跋扈妖怪伝牙吉 第一部 (04/松竹京都)、 イノセンス (04/プロダクションIG、スタジオジブリ) ・・・他

音楽家になったいきさつはなんでしたか

高校時代、初めてエレキギターを買ったのがキッカケでバンドを作ったんです。まぁ、そのお陰で浪人しまして(笑)。大学も入ったものの音楽クラブに入ったお陰でこれまた中退しまして(笑)、その後、親の手前音楽の専門学校に入ったんですけれど、結局半年ぐらいでやめてしまったんです。でも、その頃から少しづつ作曲の仕事が入ってきたんですね。そんな時、ある歌手のバックバンドのリハーサルをやる事になった所にコンテストの張り紙がしてあったんですよ。大学生ならばOKと書いてある、自分的には年齢的にギリギリ大学生でしたし(笑)、まわりのメンバーもギリギリ大学生に見える。それで本当の大学生との混合バンドを作って応募したのがキッカケです。だけど、優勝した事でバンド活動をしなければいけなくなってしまったので、その後がたいへんでした。お金になる仕事がなくて、結局は個人プレーに走り、自然消滅してしまったんです。

それと並行して昔から音響設備に興味があり、自宅録音をしたいと思って色々な機材を集めていたんですね。それがエスカレートして、今じゃこんな風なスタジオになってしまったんですけれども。当時はアリスの矢沢さんなどが年中うちにいらしてて「デモテープ作ってくれ~」と言っていました。(笑)

音楽は元々好きだったのでしょうか

父が音楽が好きだった影響で、僕も子供の時からよく聞いていました。小学生の時はフォークを中心に…ブルー・コメッツとか…森山良子の『さとうきび畑』とかも当時聞いて感動していたクチですね。中学ぐらいになって、洋ものポップスが流行りまして…ビートルズ全盛期の『レットイットビー』の頃ですが、僕は特にバート・バカラックとかカーペンターズとかキャロル・キングが好きでしたから卒業するまで、そればっかり聞いていましたね。

どのように曲を作っていらっしゃるんですか

僕の場合、自分の中から湧きあがってきたものを“音”にするのではなくて、映像から感じる“パワー”をメロディーにしてゆくんです。だから僕は映像がないと音楽も作りにくいですね。作るときはまず、その映像シーンを思い浮かべて、自分が「一番気持ちいい」と思う曲を作ってゆきます。監督のオーダーがあれば、役ごとにテーマ曲を作るという事もありますけれど。

たいへんなのはどんな作品ですか

やっぱりアクション映画がたいへんですね。画に合わせて音楽を作るところが沢山ありますから。でも、逆に静かな作品のものはその心情をどう出すかがたいへんですし…種類が違うだけでたいへんさは同じでしょうか。音楽の数にもよりますが、作るときは締切から割り出して作ってゆく事もあります。2週間ぐらいで、しかも一日に6~7曲作らなければいけない時もありますしね。今まで作ったものの中で一番長かった曲は『KILLERS〈キラーズ〉』(押井守監督)というオムニバス映画で16分半ありました。映画の本編が18分ものなんですけどね。(笑)

それからやっぱり監督の表現したい意図が理解出来ない時が一番悩みますね。それは僕が未熟だからという意味なんですけれど。話しをしながら、監督と僕の“気持ちのいいポイント点”が合えば初めての監督でも問題はありません。監督にスタジオに来て頂いて、画に合わせて作ってゆくのが一番いいみたいです。

アニメと実写では何か作る時の違いがありますか

基本的には一緒ですね。アニメの場合、画の密度が上がれば、音楽はそれほど多くを語る必要はないかもしれません。二次元的なアニメに深々とした音楽は合わない場合もあるんです。音楽が浮いてしまう。それは避けたいですよね。それからアニメは画が「止め」だと本当に何も動いていないじゃないですか。だからそういう時、音楽で“時間の流れを作る事”はありますね。

音楽家の方って普通の人より耳がいいんでしょうか。音楽を録音する時、演奏者に「あそこのところトランペットちょっと間違った」とかよく言うのを聞いて「すごいなぁ」と思うものですから。

そんな事ないですよ。耳は特別よくないと思います。(笑)ただ「慣れ」というのはあると思いますね。自分が作曲しているわけですから、管理している音以外のものが聞こえたら気にはなりますから。音符はあっているけれど、弾き方やノリ、フィーリングが違うという事もありますし。

例えばあるシーンからあるシーンに移る時、一つの曲にもかかわらず、それに合わせて音楽も変わったりする事がありますよね。どうやって、そこで音楽の調子を切りかえるものなんですか

僕の場合はまず、仮の曲を作って画に合わせてみます。そして、アクションですとか曲の切り返るポイントを決めて…その間の秒数を出す事もありますが、それが一曲として自然に切り替わるように曲の構成を考えるんです。1、2箇所画に合わせるのはそんなに問題ないですよ。6、7箇所ぐらいになってきますとたいへんですけれどね。

いつも「もう作れない」と思いますよ。(笑)一つの作品が終る度に「これでもう終りだ」と思う。でも、何故かまた続けてやってしまうんですよ。いつも前の自分を越えてゆきたい、という気持ちはありますね。やる度にノートの1ページ目から始める感じ。でも、寝ないで没頭して音楽を作れるというのは幸せな事だと思っています。

ところで、どうして音楽をやる方たちは大抵昼夜が逆転しているんでしょうか(笑)皆さん、だいたい朝寝て、夕方起きているような気がするんですが…

う~ん。(笑)単純に夜の方が落ち着いてものを考えられるからだと思いますね。自分が一番集中出来るからかな。僕なんかは、朝からいきなり曲は作れないですねぇ。

映画の中の音楽の役割は何だと思いますか

映画って“音”と“映像”しかないですよね。『音楽』は唯一、映画の登場人物に聞こえていないものです。それを違和感なく聞かせて映画をよりよく表現してゆくもの…『ナレーション』(“ことば”)でも成り立つものを、『音楽』(“おと”)で表現するという事…難しいですけれど、そういう事かな…と思います。

例えば『仄暗い水の底から』ではどんな風に音楽を作られたのですか

あの作品では、中田監督は「生理的にいやな音」…何か気持ち悪い感じを出したいという事でした。ですから見ている観客があたかもその現場にいるような錯覚を持てる音楽作りを心掛けました。音楽が“音楽音楽”していたら気持ちが冷めるので、音楽的アプローチは出来るだけ消して、雰囲気に徹したつもりです。

音楽家になるにはどうしたらいいでしょうか

音楽家は自分を追い込む事が出来れば、誰でもなれると思いますよ。曲を作らなければならない状況を作るという事です。今は楽譜が読めなくてもコンピューターがありますしね。ただ思いこみの強さというのは必要かもしれません。

結局、評価するのは世間の人なんですね。例えば、ご飯にアイスクリームをのせて食べるのが最高と思っていても、それを世間に評価させるのは難しいでしょう?誰が食べても美味しい料理を出せばいい、そうすれば受けるんですよね。でも、それが一番難しい。(笑)だからこそ一部の人にしか受け入れられないかもしれないけれど、その一部の人には100点と言われるものを作る…それが『個性』というものなのかな、とも思いますね。

劇場で自分の曲を聞くときには緊張しますよ。はっきり言っていやです。(笑)でも、お客さんが喜んでくれたり、自分の思い通りの作品が出来た時の達成感…快感というのはありますね。曲作りは、その作ってゆく過程で何かしら形は変わってゆくものなんですが、その最初のイメージを超えられるまで頑張る事が大切だと思っています。

今後やりたい作品などはありますか

軽いコメディーものなんかやってみたいですね。駅前シリーズって呼んでいますけど…寅さんなんかもすごく好きなんですよ。

最後にメッセージをお願いします

僕からはお客さんに「こう聞いてください」という要望はないですね。音楽は、その映画という作品と一体のものですから、音楽のここを聞いてくださいという要望はないんです。でも、単純に日本でもっと映画が盛んになったら嬉しいですね。最近は日本映画も頑張っているなと感じますし…だからこそ自分も頑張らなくては、と思います。僕…“ポリシー”がないんですよ。(笑)もし僕が「こうでなければいけない」というポリシーを作ったら、それは自分でなくなってしまう気がしますね。出会う人や仕事によって自分のスタイルは変わって行く…悪い意味ではなくて、流れる方にいきつくという感じですね。

インタビュー後記

川井さんを訪ねてAUBEの事務所にお邪魔したところ、スタッフの方が総出でお出迎えしてくれました。「なんてアットホームなスタジオなのっ」とまず、びっくり。そんな中をネコ達がす~いすいっと通過してゆくのです。そして、川井さんのご登場。さて、その川井さんがどんな方か…一言で言うと、すっごく柔らかくてあったかい方。タンポポみたいにふわ~と色んなところに自分が飛ばされてゆくのを自然に楽しむ方だとお見受けしました。「こんなとこにたどりついたぞ~」と自分で自分のたどり着いたとこにわくわくする。だけど、自分の「核(タネ)」だけは心の中にちょこんと座っている。『いい加減』なんじゃなくて、『イイかげん(よい加減)』に生きていらっしゃる、とっても謙虚で自然な感じ…いつのまにかそんなキャラクターに皆が惹かれるんじゃないかと思いました。心の中に小さな灯りがぽっと燈っている。それもきっとあったかい灯りでしょうね。


川井憲次さん公式ホームページ

『イノセンス』公式サイト

カンヌ映画祭
コンペティション部門出品
日本のアニメ映画としては初の快挙!!
監督・押井守氏、音楽・川井憲次氏の世界を是非ご堪能ください


『AUBE』のゆかいな仲間たち

可愛いでしょ~。
スタジオの中を自由にうろうろ

ティッシュの箱が小さく見える…

気持ちよさそうに寝てるねぇ

手、でかっ

PRESENT